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経済学者・竹中平蔵氏が石破茂政権の2万円給付案や減税政策を一刀両断。低所得者層の税負担実態や、なぜ「減税は無意味」と断言するのか──最新インタビューをもとに解説します
1. 竹中平蔵氏が「減税無意味論」を唱える背景
石破茂政権の2万円給付案を「目的がわからない究極の手抜き」とバッサリ斬るのは、かつて小泉純一郎政権で構造改革を断行した経済学者・竹中平蔵氏だ。2025年7月にみんかぶマガジンとの対談で、竹中氏は減税政策の効果について疑問を呈し、その理由を明確に述べている。
竹中氏によれば、政策を考える上で最も重要なのは「何を目的としてやるのか」という点だ。景気刺激なのか、物価抑制なのか、低所得者の救済なのか。目的によって手段は決まるはずだが、石破政権の給付案はその目的が不明確だと指摘する。
「普通に考えれば、今回政府がやる目的があるとしたら、やはり社会保険料がすごく高くなってきたので、低所得者の人の負担が非常に大きい。だからその人たちを救わなければいけない。もちろん高額所得者、中所得者の人も物価高で困ってはいるけれども、全員を助けることなんかできないから、一番困っている人を助ける、と。」—竹中平蔵
【考え】
竹中氏は「短期的な人気取り」や「手抜き財政」が招く副作用を重視している。無秩序な減税競争は将来世代にツケを回すとの警鐘を鳴らしているのだ。特に、政府の役割は一時的な給付金で人気を得ることではなく、持続可能な経済構造を作ることにあるという考えが根底にある。
2. 「低所得者はそもそも税金を払っていない」の実証データ
竹中氏の「減税は無意味」という発言の核心部分は、「低所得者の人はそもそもあまり税金を払っていないわけだから、減税しても意味がありません」という指摘にある。これは日本の税制構造を反映した重要な事実だ。
厚生労働省の2022年国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯(課税の有無が不詳の世帯含む)は全世帯数のうち24%だった。同年の全世帯数(5431万世帯)から試算すると、およそ1300万世帯が住民税非課税世帯と推定される。
年齢別にみた住民税非課税世帯の割合は、20歳代が24.2%、30歳代9.2%、40歳代9.2%、50歳代11.3%、60歳代19.2%、70歳代34.9%、80歳以上44.7%となっている。特に注目すべきは、住民税非課税世帯のうち74.7%が65歳以上で占められていることだ。
さらに衝撃的なのは、竹中氏が指摘する所得税率の実態だ。「所得税率が10%以下の人の割合は、納税者の中でどのぐらいだと思いますか?」という問いに対し、竹中氏は「8割です」と回答している。
つまり、日本の所得税というのは、税制の基本のはずなのに空洞化しているという実態がある。多くの国民は、所得税よりも社会保険料や消費税を通じて負担を強いられているのが現状だ。
財務省のデータによれば、日本の社会保険負担率(対国民所得比)は過去20年で大幅に上昇している。竹中氏はこれを「ステルス増税」と表現し、「財務省にすごく責任がある」と指摘している。
3. 石破茂政権の2万円給付案を「究極の手抜き」と斬る理由
石破茂政権は2025年参院選の公約として、国民1人当たり2万円(子どもと住民税非課税世帯には4万円)の給付金を提案した。表向きは物価高対策とされているが、竹中氏はこの政策に対して厳しい批判を浴びせている。
竹中氏の批判点は以下の通りだ:
- 政策の目的が不明確
- 高額所得者にも一律給付することの非効率性
- 物価高の根本原因に手をつけていない
- 一時的な給付では持続的な効果がない
「結局、自民党がなぜあんなことを言い出したかというと、物価が上がったことによって税収が増えたんですよ。別に政府が努力したから増えたわけじゃなくて、物価が上がれば名目GDPが増える。税収は名目GDPで決まるので、知らない間に税収が増えちゃった。その増えちゃった分を『お返ししましょう』というのが趣旨でしょう。」—竹中平蔵
さらに竹中氏は、一時的な給付を繰り返すのではなく、制度として給付の仕組みを作るべきだと主張する。「ばらまきだ」という批判は、このような文脈から理解できる。
【考え】
給付金は生活困窮への即効薬だが、財源確保策が曖昧では焼け石に水だ。竹中氏の批判は、単に給付金政策を否定するものではなく、より体系的で持続可能な政策の必要性を訴えるものといえる。
4. 今後の税制改革と財政健全化に向けた提言
では、竹中氏はどのような代替案を提案しているのだろうか。彼が注目するのは「給付付き税額控除」という制度だ。
「日本の所得税は累進課税で、所得の高い人の税率は最高で55%、低い人は5%や10%、さらに低い人は0%ですよね。この累進構造の傾斜をもう少し滑らかにして、所得が極端に低い人の税率を『マイナス%』にすればいいんです。マイナスの所得税ということは、税金を納めるのではなく、逆にお金がもらえるということです。これが結果的に『給付』になるわけです。」—竹中平蔵
この「給付付き税額控除」は、いくつかの国ですでに実施されており、野党の一部も主張しているという。竹中氏はこの議論をもっと進めるべきだと主張している。
また、低所得者の負担が大きいのは所得税ではなく社会保険料だという認識から、社会保険料を時限的に減らすか、困っている人たちに限って社会保険料分を給付する方法も提案している。
財政健全化の観点からは、無秩序な減税や給付を避け、消費税の使途を明確化しつつ、低所得者向けの軽減策を組み合わせることが重要だと示唆している。
5. 専門家・有識者のコメントと世間の反応
竹中氏の「減税無意味論」は、専門家や世間からさまざまな反応を引き起こしている。
林尚弘氏(『令和の虎』主宰): 「ちょっと待ってください……。僕はずっと、所得税を払っている4,000万人で残りの8,000万人を支えるのは辛いな、と思っていたんですが、その払っているはずの人たちの8割が、税率10%以下なんですか? じゃあ国民は全然税金を払っていないってことじゃないですか。そりゃ俺の税金が高いわけだ……。」
一方、SNS上では竹中氏の発言に対して賛否両論が巻き起こっている。「低所得者は消費税を払っている」という指摘や、「社会保険料の負担こそ問題」という意見も多く見られる。
また、財政学の専門家からは、日本の税制の歪みを指摘する声もある。所得税の空洞化と社会保険料の増加という構造的問題は、多くの専門家が懸念を示している点だ。
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6. よくある質問(FAQ)
Q1. 「減税は本当に全く無意味なのか?」
竹中氏の主張は「低所得者への減税は無意味」というものであり、すべての減税が無意味だと言っているわけではない。彼の指摘は、日本の税制において低所得者層はそもそも所得税をほとんど払っていないか、非課税となっているケースが多いため、所得税の減税では彼らの負担軽減にならないという事実に基づいている。
中高所得者層や企業に対する減税は、別の経済効果を期待できる可能性はある。ただし、財政健全化との兼ね合いを考慮する必要がある。
Q2. 低所得者向けの他の支援策には何がある?
竹中氏が提案する「給付付き税額控除」の他にも、以下のような支援策が考えられる:
- 社会保険料の減免や補助
- 低所得者向けの消費税還付制度
- 生活必需品に対する消費税率の軽減
- 住宅手当や光熱費補助の拡充
- 職業訓練や教育支援による所得向上策
いずれの政策も、一時的な給付よりも持続可能な制度設計が重要だという点では竹中氏の主張と一致している。
Q3. 今後どのような税制見直しが期待される?
今後の税制見直しとしては、以下のような方向性が考えられる:
- 所得税と社会保険料を一体的に捉えた制度改革
- 消費税の使途の明確化と低所得者向け軽減策の導入
- 給付付き税額控除の導入検討
- 資産課税の見直し
- 社会保険料の負担構造の再設計
特に重要なのは、税制と社会保障を一体的に捉え、持続可能な制度を設計することだろう。
まとめ
竹中平蔵氏の「減税無意味論」は、一過性の人気取りではなく、持続可能な財政運営と成長戦略を両立させる視点に基づくものです。彼の主張の核心は、低所得者層はそもそも所得税をほとんど払っていないため、減税よりも社会保険料の負担軽減や給付付き税額控除といった制度設計が効果的だというものです。
財務省のデータが示すように、日本の社会保険負担率は過去20年で大幅に上昇しており、特に低所得者層への負担となっています。この状況下で、一時的な給付金ではなく、持続可能な制度改革が求められているのです。
今後の政策議論では、低所得者層の実態を正確に把握し、効率的かつ公平な税・給付制度の設計が不可欠と言えるでしょう。一時的な人気取りのための政策ではなく、長期的な視点に立った改革が必要とされています。